第20回アトピー性皮膚炎治療研究会
テーマ:「スアトピー性皮膚炎の痒み」
平成27年2月14日
第5回日本皮膚科心身医学会
テーマ:「皮膚科心身医学はじめの一歩」
平成27年2月15日
会頭:水谷 仁(三重大学大学院皮膚科学教授)
会場:鳥羽国際ホテル
大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗
会場からのスナップ
ここ数年以上、日本の皮膚科学会、アレルギー学会関連でのアトピー性皮膚炎の治療に関する発表が激減しており、結果として、アトピー性皮膚炎の診療が問題なく行われているのかと誤解しがちである。逆にフィラグリンなどのバリア機能異常や食物アレルギーの経皮感作が小児科の先生を中心に活発に行われ、アトピー性皮膚炎発症のハイリスク患者の出生時からのスキンケア介入のアレルギーマーチ阻止効果の素晴らしい結果が公表され、小児科領域ではその研究が盛んである。皮膚科領域に置いては今後のIL31やIL4を標的とした分子標的薬や新たな痒み治療薬の登場までここ暫く痒みの治療や疫学研究、GWAS解析などの研究が主体であるようである。その意味でこの会は皮膚科領域のアトピー性皮膚炎の診療に携わる医師が年に1回集まり、共通のテーマで討論し合うユニークな研究会であり貴重な会であった。しかし、20回を経過し、世話人の中からも会員が高齢化している、ポスター発表を導入し若い方を参加させる方法論を進めるべきだとの意見が出てきた事も事実である。実際参加されている先生は地元のアトピー診療に携わっている方以外は司会や演者を努められる大御所の先生ばかりであり、若い先生の発表や討論への参加は殆どなかった。
その中で気がついた事を記録しておきたい。
江畑先生は痒みの評価に関するグローバルな委員会のメンバーでVAS、VRS(Verbal rating scale), NRS(Numerical rating scale)の評価などのコンセンサスMeeting に参加され、その成果を公表されている。現在ご自身が携わられている5D Itch scale の日本語版の作製状況とその成果を発表された。今後他疾患との比較が必要と述べられた。青木先生は日常生活における10 項目の言葉による評価(VeS)の有用性と今後の応用に関して口演された。私自身入浴習慣、就労の有無、基礎疾患による差などをどう反映させていくかを質問させて頂いた。ランチョンセミナーでは上出先生が睡眠障害の実態をご自身の研究をふまえ、口演された。江畑先生等と開発されたビデオによる掻破行動の検討結果や我々が発表した論文を引用して頂き、特にシクロスポリンが痒みとそれによる掻破行動を抑制する事で睡眠の改善効果があることを口演された。実際には100mを食前に内服すること、12週を目安に投薬する事で睡眠障害が改善するとのことであったが、初期量を150mgとやや高目に設定する、あるいは分2食後にするなどの意見がでた。私は、副作用発現のモニターをすることもなく一般の先生がシクロスポリンを使用するリスクや悪性リンパ腫発症の可能性など、今後後発薬が主体になった時の情報提供の問題や、離脱できない症例をどうするかなどをお聞きした。広島大学の秀先生からは2例の患者で問題なく休薬で来たとの発言があったが、座長の塩原先生からは何%位が離脱可能かとの質問もあり、10例位で2例とのコメントであった。塩原先生同様、私もあまりシクロスポリンは使用しないので参考になった。
午後からのシンポジウムは所用で聞けず、その後横関先生のスイートセミナーから会場に戻った。スギ花粉尾飛散時期に露出部に皮膚炎が生じやすい事、スクラッチパッチテストでCryJ1に即時反応に加え、遅発反応がでること、マウスでCryJ1による皮膚炎の惹起が可能であることなどを口演されたが、経皮感作されたマウスで花粉症が惹起されるのか?あるいは人のスギ花粉症が経皮感作されるか、その場合の経上気道・鼻粘膜感作との抗原提示がどう異なるのか、対応する抗原エピトープは同一かなどの検討が必要であろう。
その後は痒みの最新の知見につき、古江先生からお話があり、今後続々と新しい痒み治療薬が登場する予定との夢のある話を頂いた。その後唯一の一般演題があり、阪大から中野先生が、また獨協医大の片桐先生がそれぞれ痒疹の治療に対する発表をされた。中野先生には片岡先生から質問があり、タクロリムスを使用することも(我々は当然使用していない)予測されるエキシマを顔面に使用して、問題がないかという不思議な質問があった。日常生活で暴露される顔面の紫外線防御のことを考えてのご質問かと思うが、150mJの照射が問題になるのであろうか?またエキシマを一部に照射後、非照射部以外の病変も改善したが、ステロイドの効果でないかとの質問があった。そのあと秀先生からも「ステロイドの外用が不十分なだけではないか」との質問があった。今回の検討は複数の前治療施設でステロイド外用を行ったが無効で、阪大初診時、ステロイドの副作用が目立ち、減量などができない症例に、すべての前治療は継続し、エキシマライトの部分的な照射をオンしたのみである。試行したすべての患者の結果を解析したが、当方の初期の予想と全く逆の結果であり発表した旨コメントした。リバウンドなどで基礎治療薬を変更できず、部分照射部と非照射部でコントロールになるかと判断して頂けるかと考えたが、当方の説明不足だったかと反省している。一般的に、疫学研究や治療介入試験などでは対象とする患者やコホートが研究者の関与する範囲に限定されることが多く、Biasがかかる事が多い。ステロイド外用によるタイトコントロールに関しては以下の点について不明であり、また論文で発表して頂ければと思う。そこからまた、この治療法の是非が科学的に論議されることを期待したい。
○ ステロイドのタイトコントロールの登録症例がステロイドの未使用例か、Washout した症例なのか?
○ 対照として前治療は継続し、悪化因子の検討と除去を行った症例と比較したのか?
○ ステロイドの副作用が見られる症例も組み入れられたのか?
○ TARCが下がり、減量ないし中止できた例が登録症例の何%くらいおられたのか? また正常域まで低下するのに平均どれくらいの時間とステロイド量が必要となるのか?
○ 顔面のステロイドの使用もTARC値が正常化するまで継続するのか?
○ 皮疹改善後検査にてTARCが正常化を確認するまで最低一ヶ月以上(月1回の査定)の時間が必要であるが、その間もステロイド外用を継続するのか?
○ TARCの低下の見られない症例、特に小児例はどう治療されるのか? 特に片岡先生のような豊富な臨床経験がなく、皮疹の評価できない非専門医がこの治療を安易に行った時のリスクをどう考えられるのか?
○ TARCが下がらない場合悪性リンパ腫や他の炎症性疾患を鑑別できるのか?
○ TARCの産生細胞は現在なお不確定で、特異性にもまだ議論があり、血清値で副作用や感染症も含めたアトピー性皮膚炎の多様な皮膚症状をモニターすることは可能なのか?
ステロイドは抗炎症薬として効果があり適切な使用を行う事で有用性があることはコンセンサスが得られているが、世界のGLでは数週を目処にランクダウンあるいは土日に限定して使用する(Weekend therapy)など副作用の発現を押さえる使用法が推奨されている。
●Furue M et al. Clinical dose and adverse effects of topical steroids in daily management of atopic dermatitis. British Journal of Dermatol 148:128–133, 2003
●EIchenfield LE et al. . Guidelines of care for the management of atopic dermatitis. Section 2.Management and treatment of atopic dermatitis with topical therapies. JAAD.
2014 ;71(1):116-32.
また近年高齢者の湿疹患者に最強のステロイドの外用とステロイド薬の内服が長期に行われている例が増加している。これらはやはり安易にステロイドを処方し、悪化因子や背景疾患の是正、治療を検討せず、漫然と処方を継続している患者に多い。
●Nakano-Tahara M, et al. T Helper 2 Polarization in Senile Erythroderma with Elevated Levels of TARC and IgE. Dermatology. 2015;230(1):62-9.
繰り返しになるが、アトピー性皮膚炎の治療、特に難治例は悪化因子や背景因子の解決なしに十分な治療効果を得ることは難しい。逆に軽症例に過剰な治療を行う事も慎むべき事で、これらの点を科学的に評価し、問題点を吟味し、GLに反映させていく事が我々アレルギー疾患の診療に関わる医師のつとめと考える。現在の高齢者の紅皮症のなどの増加を見ると「ステロイドのタイトコントロール」という一一見Attractiveな治療法が一人歩きし、科学的な根拠なしに無批判に行われた場合、また20世紀後半の混乱した時代に逆行する可能性があると危惧する。本療法の結果をとりまとめた論文を示され、冷静な議論がなされる事を望む。
2日目の日本皮膚科心身医学会では「香りが精神、身体におよぼす効果」
とのタイトルで小森 照久教授(三重大学看護学科成人・精神看護学講座) のアロマに関するお話を興味深く拝聴した。特にバレリアンというアロマオイルは経口的にも処方可能でGABA代謝の改善を通じて、抗欝作用がある事を示された。また一般社団法人自然療法機構 理事の影山むつみさんがアロマ療法の実技を講演され、参考にさせて頂いた。痒みの治療にもアロマは有効との論文は多く、我々も積極的に本療法を日常診療に取り入れていきたい。勉強するべき事が増え、考えさせられる発表も多かった有益な研究会であった。
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