この1週間:嬉しい知らせ、出来事など
平成27年11月8日
大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗
日々、様々な出来事が私を通り過ぎていく。多くは頭を悩ますことがほとんどだが、この一週間は珍しく、嬉しい知らせや出来事が相次いだ。
最も嬉しかったのは、熊本大学の神人先生が脈管肉腫でHybrid遺伝子を見つけられたことで、まだ論文を読めておらず、以下のプレスリリースの情報しか知り得ないが、本当に大きな発見かと思う。「患者25人を調査。うち9人は「NUP160」と「SLC43A3」という本来は別々の遺伝子が異常に融合していることを確認した。この9人は、融合のない患者と比べると、がんの進行も早かった。融合のない16人は、別の要因が考えられるという。異常融合の遺伝子を導入した細胞をマウスの皮膚に注射するとがん化し、逆に融合遺伝子を取り除くと血管肉腫の細胞が減ることも判明。神人准教授は「今回の研究で皮膚がん全体の制圧にも光が差した」。DFSPで類似したCOL1A1-PDGFB融合遺伝子が検出されるが、今回の発見との異同や今後の治療戦略に与える影響など多くの議論が必要とは考える。今から30年ほど前に北里大学に赴任してすぐに初診を担当したAngiosarcomaの患者さんに対し、当時脈管肉腫の研究をされていた増澤幹男先生がIL2投与で見られるVascular leakage syndrome(Extravasation of intravascular fluid mediated by the systemic administration of recombinant interleukin 2. Rosenstein M, Ettinghausen SE, Rosenberg SA. J Immunol. 1986 Sep 1;137(5):1735-42.) を参考にIL2の投与を世界で初めて行われ、劇的な効果を認めた。この患者さんを端緒として、増澤先生は現在に至るまで本当にライフワークとして脈管肉腫の病態研究に取り組んでこられ、人の脈管肉腫の細胞株をマウスに移植すると人型の遺伝子がマウス型に変わるという驚くべき現象を発見された。多くの雑誌に投稿されたが、なかなかAccept されず最終的にJ Dermatol Sci. 1998 Jan;16(2):91-8. Establishment of a new murine-phenotypic angiosarcoma cell line (ISOS-1).Masuzawa M et al. として発表された。人型の遺伝子を持つ腫瘍がマウスに移植することで、マウス型の遺伝子に変異することで拒絶されにくくなることは、この腫瘍の持つしたたかさを反映しているが、今回の神人先生の発見がこの謎を解く端緒となることを願うとともに、乾癬などの病態発見につながるのではないかと個人的には考えている、増澤先生、本当におめでとうございました。
二つ目の嬉しい出来事としては、以前一緒に仕事をした先生方が、ご自身の皮膚科学を樹立されつつあることで、忙しい毎日の中で、臨床を楽しみながら、持続性を保ち、多くの方々と情報交換をし、世界を少しづつ広げられており、本当に嬉しく思う。長崎県島原で開業されている大仁田亜紀先生、諫早市で開業されている西村香織先生、長崎大学皮膚に勤務されている芦田美輪先生など久しぶりにお会いし、あるいはFBなどでその活躍を知り、多いに元気を貰いました。
(写真:長崎大学皮膚科開講100周年にて)
大仁田先生の記事
済生会川口総合病院の高山かおる先生には先日大阪で講演頂き、接触皮膚炎のGL作成に加え、フットケアhttps://www.amazon.co.jp/gp/aw/d/4837612636#immersive-view_1446946218312、フラダンスとドンドン御自身の領域を楽しみながら広げておられ、若い先生のよいRole modelになっておられる姿を見て嬉しく思った。今の時代、女性医師が圧倒的に増え、彼等がどのような皮膚科医になるかで皮膚科の将来が決まると言っても過言ではない。個々の女性医師が生涯をかけて取り組めるようなテーマを女性医師のライフスタイルに合わせて、考え、与えていくのが指導医の責任であることは言う迄もないが、現状は厳しいようで、第2、第3の高山先生が現れるのを期待する。
講演される高山かおる先生
同じ講演会で順天堂大学形成外科の金澤成行先生には皮膚潰瘍をいかにして早く治すか?というタイトルで、講演頂いた。彼が大阪大学の大学院生の時から研究面で情報交換していたが、今回はご専門の創傷治癒の基礎的な話と形成外科的な視点からの潰瘍治療で、講演していただいたが、嬉しい誤算で、皮膚科医以上に足が地に着いた、難しい皮膚潰瘍を自分の力で治すという意気込みが強く感じられる内容で、しかも患者さんの目線で何の気負いもなく淡々と語られる姿は若い皮膚科医にも強い感銘を与えていただいた。彼自身,皮膚潰瘍治療用の軟膏を開発、自作されているそうで、私も今、自分が日常診療で使用したい軟膏を開発しているが、彼には皮膚科医としての感性を感じた。研究面では小保方さんの事件より前から、遺伝子導入をせずに細胞をリプログラミングする研究を継続しておられ、その成果をこっそり教えて頂いた。STAP細胞は科学史から消えさったが、ひょっとしたら、彼が何気なく復活させるのでないかと思った(南方熊楠とSTAP細胞)。
http://www.dermatologyosaka-u.jp/column/katayama/2014_7.htm
三番目としては私が行っている白斑の研究で教室の大学院生の楊飛先生が白斑の発症機序の大きな手がかりになる現象を見いだしてくれたことで、今後のさらなる頑張りを期待したい。彼からは先ほど”LC 2015″ 14th International Workshop on Langerhans cells” で発表したデータに関し、 …「みんな結構興味ありそうでした、6人ぐらいが質問しました、また、中国である一教室は同じ研究やってそうです。どうぞよろしくお願い致します。」とのメッセージを頂いた.頑張りましょう。また韓国のChonnam National University Medical School教授で韓国白斑学会理事長のSeung-Chul Lee先生から東アジア白斑会議設立へのお誘いをいただいた、この学会が難治の白斑患者治療の端緒になることを願う次第である。
2015年11月