8th World Congress of Melanoma
2013. 7.17-20
Hamburg International Convention Center
大阪大学大学院医学系研究科分子病態医学
皮膚科教授 片山一朗
メラノーマの治療に関する国際学会がハンブルクで開催され、参加した。
大阪大学からは種村、田中文、林先生がそれぞれ演題を発表された。メラノーマに特化した学会に参加したのは初めてで、日本の皮膚科関連施設からはメラノーマを積極的に診療されているガンセンターや大学関係者などごく少数の参加者のみであった。メラノーマの診療に皮膚科医が関与しない米国などからは殆ど出題がなかったようである。逆に切除、診断、後療法などすべてに皮膚科医が関わるドイツ診療圈からは多くの出題が有り、今後のメラノーマに皮膚科医がどのように関わるのかを考える上で、今回の学会は大いに参考になった。
我々は大会前日の夜フランクフルト経由でハンブルク入りしたが、大阪とあまり差のない暑さであった。あとで聞くと到着の前まで雨模様の寒い日が続いていたようで、ドイツ北部としては珍しい好天が会期中続いた。翌日は朝から晩までメラノーマ漬けであった。特に最近の分子標的薬と抗体療法の進歩は目をみはるものがあった。種村先生の話ではステージ4の患者の腫瘍が消失し、再発もなく治療が継続出来る時代が近いようである。特に抗PD-1抗体や抗CTLA4抗体とBRAF阻害薬などの組み合わせと休薬期間をうまく調節することで薬剤耐性も生じにくくなるようで、今後のメラノーマ治療が大きく変わることが予想されると関西医大の為政先生から伺った。またSpitz nevusはメラノーマとの鑑別が困難な母斑であるが、最近Atypical Spitz Nevusとブドウ膜のメラノーマなどでBAP1 (BRCA1-Associated Protein 1)と呼ばれる分子の遺伝子変異や発現低下が見られることが注目されている。特にatypical spitz tumorと総称される腫瘍で、大型のEpithelioid様細胞に異型性が見られ、このような細胞に特異的にBAP1の消失と高率にBRAFの遺伝子変異が見られるとのことで、メラノーマとの異同や治療介入などホットなDiscussion を誘っていた。Busam KJ, et al.Combined BRAF(V600E)-positive melanocytic lesions with large epithelioid cells lacking BAP1 expression and conventional nevomelanocytes. Am J Surg Pathol. 2013;37(2):193-9.
懇親会はNetworking Eveningとして会議場に隣接する庭園で行われ、
日本からの参加の先生方と情報交換を兼ね、楽しい時間を過ごすことができた。2日目以降も初日同様、新しいメラノーマの治療薬の治療成績や疫学研究、分子診断学などの講演が行われ、最終日にはメラノーマ以外の皮膚腫瘍の臨床、基礎研究のセッションがEuropean Association of Dermatooncology(EADO)との共催で行われていた。特にメラノーマの治療に関しては非常に戦略的な計画のもとで行われた研究が多く、症例数も最低でも3桁後半から4桁で、欧米で確立されている国家レベルでの患者登録システムを早く日本でも導入する必要性を強く感じた。会期中、ドイツの皮膚科でのメラノーマ治療の実態を知る目的で、近くのLubeck大学皮膚科を訪問した。Zillikins教授、Paus教授ともに夏休みで不在であったが、留学中の岩田浩明先生(岐阜大)、古賀浩嗣先生(久留米大)のお二人の先生、ロシアから留学されているArtem先生や病棟医に外来、病棟、研究室を案内して頂いた。米国、英国では皮膚科がかなり細分化、分業化されており、腫瘍や膠原病など皮膚科医が関与する領域がかなり狭くなっているがドイツ圈では100を越すベッド、独自の病棟、外来、検査室、研究室などを備え、皮膚科で完結する医療が行われている。Lubeck大学皮膚科でもメラノーマ以外にも、水疱症、膠原病、腫瘍、乾癬、静脈瘤など広範囲の疾患を診療されていた。米国ではメラノーマはダーモスコピーをやる程度で診断は病理、治療は腫瘍外科、腫瘍内科、再建は形成外科に任せる施設が増えている。分業や連携システムが整備されていない日本で将来的にメラノーマなどの疾患の治療を誰が、どう行うか不安に思うことも多かったが、今回、米国式皮膚科学の対極にあるドイツの皮膚科でのメラノーマに対する取り組みを知る機会を得て、多いに勇気づけられた。逆にこれだけ新たな治療が次々と登場する時代であるからこそ、スーパーローテートで救急や全身管理を経験された次の世代を担う若い先生には全身疾患としての皮膚病の治療に取り組み、その武器として臨床腫瘍学や皮膚外科を修め、病理の読める皮膚科医になって頂きたいし、そのための研修システムを皮膚科学会全体で取り組んで行く必要があると考える。腫瘍内科的な素養は乾癬の分子標的薬治療が役にたつと思うし、阪大でも病理、放射線科、形成外科などとの定期的な症例カンファレンスなどをさらに推進して行くつもりである。日本では女性医師の復帰支援が大きな問題となっているが、Lubeck大学では女性医師が指導者層の中心を占め、先に述べた多くの疾患を診療され、自分が興味を持つ疾患の基礎研究をおこなうことで皮膚科の臨床に奥行きを持たせる努力をされていた。日本でも同じ事はできるはずであり、その具体的な戦略を頭に描き、阪大および関連施設の先生にも積極的に難治性の疾患に取り組んで頂きたいと願いつつ、ハンブルクの街を後にし、帰国の途についた。
会場近くのAussenalster湖(夜9時を過ぎた頃)
大阪大学大学院情報統合医学皮膚科 片山一朗
平成25年7月25日掲載