2014年を迎えて :「Innovative Dermatology from Osaka」
大阪大学大学院医学系研究科
情報統合医学皮膚科学
教授 片山一朗
皆様新年を迎え、新たな気持ちで診療、研究そして自身の年頭の目標をスタートさせておられるかと思います。
私も、今年3月で大阪大学に着任10年となります。着任時の教室作りのテーマとして、「明るく、楽しい皮膚病診療と開かれた教室運営」とし、大阪大学発の研究と創薬を自由に進めていただくこと、関連病院は部長の専門性を全面にうちだし、特徴のある診療を行うようにお願いいたしました。全国の教授からはやや覚めた視点のご意見を頂いた記憶がありましたが、教室、関連病院、関連大学、同門の先生方のご支援、ご尽力で大阪大学皮膚科学教室も大きく発展してまいりました。今年は12月に第39回の日本研究皮膚科学会を開催させて頂きます。大会のテーマは「Global Tuning of Innovative Dermatology」とし、2日目夜から翌日は審良静男教授の特別講演や阪大の先生方を中心としたInnovation forumを予定しております。次の10年のさらなる発展のためにも、本大会を基軸に研究を発展させ、大阪発の新しい皮膚科学の情報を日本のみならず、世界に発信させていく必要があります。
さて、日本の医療改革は二十世紀末の大学の法人化と大学院大学への移行に端を発し、10年前私が大阪大学に着任した年に開始されたスーパーローテートシステムの導入、学会とは異なる専門医認定機構によるあらたな専門医制度の開始やTPPの締結による医療での規制緩和など米国の医療に追従する形で進められてきました。そして今年からは大学などの研究機関には日本版NIH方式として厳しいグラント申請が課せられ、パスした研究のみに予算が重点配分されると聞いております。昨年米国のいくつかの大学を訪問したおり、研究者に聞いた話では、Publish or Perishの傾向はさらに進み、高名な皮膚科の教授もグラントが獲得できなければポジションを維持できなくなりつつあるそうです。逆もまた真で、ハーバードの皮膚科の主任教授はMelanocyteの幹細胞研究で高名で、学会などではPediatric Oncologisitと紹介されるDavid Fisherですが、臨床に関してはDay surgeryが主体の小さな皮膚科のようです。またコロンビア大学はAngella Christianoの業績で皮膚科としては有名ですが、主任教授の専門が何かを知る日本の教授は少ないかと思います。このような現状を考えると日本でも今後大学で皮膚科の看板をあげ続けていくためには皮膚という臓器に特化した、高度で新しい発想の研究が要求されて行くかと思いますし、結果として創薬につながり、他科の医療に貢献できる研究が優先的にグラントを取るかと思います。ただあまりにも基礎研究にシフトするとその大学から臨床科としての皮膚科学は消えていくかもしれませんし、長期的にはその地域の皮膚病診療にも大きな影響のでることが予想されます。逆に先に述べた臨床医としての豊かな経験や患者のニーズに基づいた視点からInnovativeな研究テーマを提案できれば、皮膚という臓器の特性を生かしたすばらしい研究や創薬開発、新しい生命論の提示なども可能になっていくかと思います。
この10年間皮膚科はどちらかというとPassiveな環境下でNegativeな議論を繰り返してきたのではないかと反省しております。今後はActiveな態度で積極的に研究、臨床に取り組んでいける環境を提供し、より普遍性のある研究、高度な医療、創薬開発を担うことのできるPositive thinkingの皮膚科医を一人でも多く育てることを最大のミッションとしていきたいと考えております。
昨年の免疫学会で慶応大学の天谷雅行教授はSurface Barriologyという、聞き慣れない、あらたな領域のシンポジストに選ばれておられます。ここ数年基礎医学研究の分野では消化管、気道、皮膚など外界と接する臓器に共通する新たな研究テーマ、創薬基盤が整いつつありますが残念ながら欧米も含め、皮膚科医がこの領域の研究に積極的に参画しているとは思えません。このほかにもアレルギー・自己免疫疾患、遺伝性疾患、悪性腫瘍など臨床医学に共通する研究テーマや紫外線に対する生体反応、かゆみの認知機能、新しい機器、方法論を用いた皮膚の生理機能解析など皮膚科医しか関与できない重要な研究テーマもたくさんあります。2014年が皮膚科学にとってInnovation 元年になることを願う次第です。
あらためて先生方のご協力をお願いいたします。
大阪大学大学院情報統合医学皮膚科 片山一朗
平成26年1月6日掲載